LAS連載第一弾です。
SSは続きから。
8/25 改定、および誤字の修正
「ふう、ようやく引いてくれたね。」
僕はL.C.Lに息を吐き出し、パイロットシートの背もたれに背中をつけてう~ん、と伸びをする。
『まったく、こっちに攻撃が聞かないのはわかってるくせにいつまでも攻撃繰り返して。
これだから戦自は金食い虫とか言われるのよ。』
隣で戦自の軍事ヘリを吹き飛ばしながら、アスカが言う。
「はあ、なるべく落とさないように気をつけてるのに、それでもまだ立ち向かってくるんだから。
命が惜しくないのかな?」
『向こうにもそれなりの事情が有るんでしょうよ。』
アスカはエヴァの足元を通過する戦車をつぶし、『はい、10機目。』といって通信を切った。
「あ~あ~。あんなにつぶしちゃって。
万が一負けたら損害賠償とんでもない額になっちゃうわよ・・・
アスカ、何も考えて無いわね、きっと。」
そして、僕の後ろからも先ほどと同じ、アスカの声がする。
「あれは一応君と同一人物だろう?
少し自分に厳しすぎやしないかい?」
僕は特に驚くこともなく、シートの後ろになんかかっている、制服姿のアスカに声をかける。
「いや、最早あれは別人よ。
今の私にあそこまでむごいことは出来ないわ。」
といって、撤退しようとしている戦自の部隊をまだ追っかけまわしている弐号機に目を向ける。
いくらミサトから殲滅を指示されれているとはいえ、流石にあれはやりすぎだ。
後ろにいるアスカは今まさに最後のヘリを落とした様子に、だめだこりゃ、と両手を挙げ嘆息する。
「いや、君ならやりかねないと思うけどね。
君は確かにあそこまでしないかもしれないけど、
加減ってものを知らないから、一機落とすつもりで下手したらここ一帯全部ふきとばしかねない。」
「そうね、確かに私ならそんなことやりかね、・・・っておい、今のはいいすぎでしょうよ。」
アスカは僕の頬めがけて腕を横からスイングさせる。
しかし、僕の顔に接触した後も、パシン、というビンタの音が響くわけでもなく、僕の頭を貫通して、反対側へ抜ける。
そして、僕の頭には鈍い頭痛が走る。
「痛いってばアスカ・・・
それほんとにたちが悪いよ。結構後まで残るんだからこの頭痛・・・
まだビンタの方がましだよ・・・」
頭を抑えて若干涙目になりながらアスカに抗議する。
「アンタがあんなこというから悪いんでしょう。
少しは反省しなさい。」
「反省するのはアスカのほうじゃな、・・・ご、ごめんなさい」
反論しようとしたらアスカが又腕を振り上げたので、結局謝ることにする。
所詮、僕がアスカに勝てるわけが無い。
「そう、わかればいいの。」
『どうしたの、急に動きが止まって。
戦自が撤退したからって気を抜きすぎよ、ハーモニクスがぶれてるわ。』
アスカとそんな風に会話していると、発令所からミサトが声をかけてくる。
どうやらアスカと押し問答をしているのに夢中で、動きを止めていたらしい。
「そりゃ、急に頭痛がすればハーモニクスもぶれるでしょうに。」
「すいません、少し考え事をしてました。
迷惑かけたようで申し訳ないです。」
ことの張本人であるアスカがあまりに白々しい事を言うので、睨んでやろうかと思ったが、
流石に何も無いのに振り向くのも怪しいので、謝りつつ右腕をアスカの胸の辺りで振り上げる。
「ひゃンッ!?」
アスカは胸を押さえて若干のけぞる様にそんな声を出す。
いい気味、と思っていたら、急に視界がぶれる。
「なにすんのよッ!?」
とアスカが叫ぶと同時に、鋭い痛みが再び僕を襲う。さっするに、再び僕の頭を殴った(? のだろう。
先ほどとは比べ物にならない痛みに、思わず手をコントロールレバーから離し頭を抱えるようにしてうずくまる。
『ど、どうしたの・・・?
シンジ君・・・?』
「だ、大丈夫です、ミサトさん・・・」
急に変な行動をしだした僕を心配したミサトさんに、僕はかろうじて返事を返し、通信を無理矢理遮断する。
「ふん、私の体に障るなんて、いい気味だわ。」
「ち、直接触ったわけじゃ、ないだろう・・・?」
いつもの腕組みをしながら、赤い顔で言うアスカに、僕はそう反論する。
「確かに私は体がここにあるわけじゃないわ。
でも、そのアンタにしか見えない体に神経がちゃんと通ってるのは知ってるでしょう!?」
がーっと一気に僕を捲し立てるアスカに、僕は反論の余地も無い。
先ほどのは事故でもなんでもなく、僕が故意にやった事件なんだから。
「それに、乙女の、あ、あんなとこを触るなんて、非常識にも程があるわ!!」
「だ、だから直接、さわった、わけじゃ、ないって・・・・」
アスカさん全力のスイングでやられたせいか、今までのものとは比べ物にならないぐらいえらく痛みがとれない。
流石にそんな様子の僕に心配したのか、心配そうな目を向けてくるが、その言葉はまったく反対のもので、
「・・ふ、ふん。それぐらいで勘弁してやるわ。
しっかし、あんたも随分とレイに毒されたのね・・・」
そういってアスカはぷいっとそっぽを向いてしまう。
あのね、と反論しようとすると、今度は弐号機のアスカが声をかけてきた。
『さっきから初号機がもだえ苦しんでるんだけど、大丈夫なの・・・?』
・・・どうやら、僕の動きが初号機にフィードバックしていたらしい。
「・・・馬鹿。」
「だ、大丈夫だよ、心配しないで。」
少し冷や汗を浮かべながら言う僕。
『そう、ならいいんだけど・・・』
そういって通信を切ろうとするアスカの言葉は、そういえば、と続き、
『MAGIが本部に接近してくる未確認の機影をキャッチしたそうよ。
油断しないようにね。』
未確認の機影。
そのの言葉に、僕は急に気が引き締まっていくような気がした。
「未確認機体だってさ。」
僕は振り返ってアスカを見やる。
「そう、とうとう来るわね、あの白い奴が。」
同じく真剣な表情になったアスカが空を見上げ、はるか向こうを睨むように、憎しみを込めながら見据える。
「量産機。アスカを殺した奴、か・・・」
僕も殺意を込めながら空を見据え、エヴァもその意思を汲み取り僕達の向いている方向を見据える。
『・・・シンジ?』
弐号機に乗っているアスカが、こちらの様子に気が付いたのか、こちらを不思議そうに見てくる。
「「・・・・来た。」」
はるか上空の黒いエヴァ運用機から、白いエヴァ9機が降下された。
「さあ、とうとう決戦だね。」
「そうね、いつぞや殺された恨みを晴らしてやるわ。」
ニヤニヤと笑いながらこちらへ降下してくる九機の量産機。
「じゃあ、アスカは雪辱戦。
そして僕は、アスカの敵を討つ、復讐戦。」
「レイのこと忘れてもらっちゃ困るわよ。
アイツのぶんまで、こいつらを叩きのめさないといけないわ。」
トントン、と自分の左目を軽く押さえるアスカ。
「ああ、そうだね。
綾波のためにも、こいつらを殲滅して、ゼーレの連中を捕まえないといけない。」
僕は笑いながら、アスカと同じようにその紅に染まった右目を押さえて言う。
「殺す、とまでは言わないのがアンタらしいわ。」
白い量産機はその美しい翼で綺麗な飛行隊形をとりながら、初号機と弐号機の周りを取り囲む。
「さあ、行こう。アスカ。」
既に、僕の中に恐怖心というものは存在していなかった。
あるのはただ、僕らを取り囲む白いエヴァを、自分の欲求のままに叩き潰したい、という感情だけ。
自分を落ち着けるように目をつぶり、僕は、静かにコントロールレバーを握った。
「ええ、いきましょう。シンジ。」
アスカは優しい声で語りかけ、僕の手の上から、いや、僕の腕と重なり、レバーをしっかりと握る。
腕も、足も、心も含め体全てが、意識全てが重なる。
アスカと、僕はシンクロする。
静かに空けたシンジの左目は、アスカと同じ、コバルトブルーを描いている。
ふと浮かべた表情には、いつぞやの『アスカ』を思わせる、獰猛な獣のような笑みがある。
もう、この思いを押さえつける必要も無い。
思うままに、全てを破壊しつくそう・・・
さあ、復讐劇の始まりだ。
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